この原稿は日経MJに連載された富田眞司執筆第1回2017年4月28日掲載原稿に加筆したものです。

第1回「シニアビジネスに新規参入で失敗する『3つの理由』とその対策」

わが国は超高齢化社会に突入し、65歳以上の高齢者は総人口の27%に達し、今後、さらに高齢者の人口が増え続ける。人口の拡大に伴い新規参入する企業も多い。しかし、シニア市場は年齢幅が広く、人口増という理由で安易に参入すると失敗する可能性が高い。
理由はシニア市場があまりにも広いからだ。シニアの定義を国は65歳以上としている。一方で人口は増えるが、定年後の年金生活者が多く個人消費は減少する。シニアビジネスを行う企業にはもっと若い世代からをシニアと捉える動きもあり曖昧だ。
日本老年学会と日本老年医学会はこれまで「65歳以上」とされていた高齢者の定義を「75歳以上」に引き上げることを提言。65~74歳は「心身の健康が保たれ、活発な社会活動が可能な人が大多数」と分析した上で「准高齢者」とし、社会の支え手として、健康な人は仕事を続けたり、ボランティアに参加するなど、支えられる側から支える側に回る必要があると提言している。
元気なシニアが増えることや社会保障費用の増加などの環境変化に対応し、国の高齢者の定義の見直しの可能性もある。

1.65歳以上は30年もの世代幅がある。ひとつにまとめれば市場が見えなくなる。
通常、世代別マーケティング分析をする場合、5歳くらいの幅で市場を捉えるがシニアの場合、年齢幅が広く決してひとつの市場としてとらえられない。元気な65歳と要介護が多い90代以上を一緒してもビジネスが成り立たない。
シニアビジネスを始めたい人がシニアを1つの市場と捉え、「要介護者」、「生活困難なシニア」など、メディアで話題になっているシニアが殆どと勝手に思い込んでいる人がいることも事実。こんな甘い発想ではシニアビジネスは成功しない。

2.「シニア市場参入で失敗する3つの理由」
1つ目は「市場をひとくくりにする失敗」がある。その対策はシニアを「生きてきた時代」「ライフスタイル」「健康状況」「生活レベル」など、もっと細分化してとらえることが重要となる。

2つ目は「シニアに対する調査データを鵜呑みにする失敗」がある。国の調査はサンプルがしっかりしているが、多くのシニア向け調査はネットなど限られた対象を調査している。シニアのネット普及率は高齢者ほど低くシニアの実態を反映していない。そのため調査データは鵜呑みにできない。特に自分でシニアの実態が実感できない世代がシニアビジネスを企画立案する場合に、調査結果に頼りすぎる傾向がある。その対策は、全体像を国などの母集団推定が可能な調査でシニアの全体像を把握した上で、商品企画などでの狙う対象特性ニーズなどの細部をネット調査などで確認する。さらに、狙った対象にはモニター、グループインタビュー、深層調査やシニアマーケティングの専門家などの意見を総合して判断する。

3つ目は「狙った対象に情報が届かない失敗」がある。
シニアになると本や雑誌をあまり購読しないことや積極的に情報を収集しないこと、テレビなどのマスメディアへの接触の偏や接触の低さなご、コミュニケーション活動が難しい。例え素晴らしいシニア向けの新商品でも狙った対象に届かなければビジネスは失敗する。その対策としては、シニアへのアプローチはメディアだけに頼らず、口コミ、イベント、企業とのコラボレーション、などの細かい対策が求められる。

 


(一般社団法人日本元気シニア総研 顧問 富田眞司 )