2020年東京オリンピックの開催が決定しました。シニアの皆様も元気で2020年を迎えてこの世界的なスポーツイベントを楽しんでもらいたいと思います。第1回目は、オリンピック招致の成功にかけて「2020年」「東京」の2つのキーワードで元気シニアを増やすビジネスのヒントを考えてみたいと思います。

東京都では平成21年3月に東京都世帯数予測というデータを公表しています。それによりますと、オリンピック開催にあたる2020年の東京では、世帯主が65歳以上世帯数は208万世帯になると予測しております。これは、東京都の全世帯の32.8%を占めるほどになります。大学や就職で若者の流入人口の多い東京都でも3分の1が65歳以上世帯になるとは改めて驚ろかされます。

実は、この予測データにはもう一つ気になるデータがあります。65歳以上世帯208万世帯のうち、約83.8万世帯は単独世帯だと予測しているのです。これは65歳以上世帯全体の概ね4割を占めることになります。2000年の時点では65歳以上世帯に占める単独世帯の割合は約34%ですから、20年で6%も増えることになります。高齢者の単独世帯はさまざまな生活・健康上の不安を抱える方が多いため、これらの方々に対し官民ともにどのように支援網を構築していくか具体的行動が急がれるところであります。

このような状況を踏まえてか日本郵便が今年10月から郵便局員が高齢者の家まで健康確認に行ったり、有料で食品や水などを定期的に届けたりする支援サービスを試験的に始めると発表しました。巨大なネットワークを持つ郵便局の高齢者支援サービスの参入は大きなインパクトを持って受け入れられました。

しかし、私が着目したのは、日本郵政のような大企業ではなく、ある都内大学の学生が在学中に立ち上げた高齢者支援の個人ビジネスの方です。事業内容はよろず相談を受け付ける“地域の何でも屋”で、それこそ買物の代行・付添から、重い荷物の運搬、庭の芝刈り、電球1個の交換まで何でもやります。昨今の若者らしく志は高く、地域問題の解決とビジネスを両立させると意気込んで始めました。実際は、その意気込みとは裏腹に事業を立ち上げたばかりの当初は全く高齢者の方々に見向きもされませんでした。最初は料金設定がその原因かと考えたようですが、地域の高齢者の方々と話をする中で「本当にちゃんとした人が来てくれるのか、自分の困りごとに誠実に応えて仕事をしてくれるのか」という漠然とした不安や懐疑心が原因になっていることにある日気が付いたそうです。

そして、この学生企業家は、高齢者の方々の「心の壁」を乗り越える作戦を実行します。それは、「初回お試し利用限定で何を頼まれても100円玉1コイン以外は一切頂きません」というアプローチです。このアプローチの狙いは、高齢者側の心理からみると「100円なら万が一お願いして期待通りの仕事をしてくれなくても捨てていい」と感じさせる程度の金額です。この作戦は成功し、お試し利用が増加しました。そして初めて利用されるお客様のご自宅に伺う時に二つ目の作戦を実行します。それは、自分のプロフィールを持っていき、仕事の合間に、お客様と自然に自分の身の上や地域のお店の話などの世間話を積極的にするというものです。自分のプロフィール帳まで作っていく念の入れようです。この狙いは、自分の人間性も一緒に売り込んで(理解してもらって)お客様に安心してもらうコミュニケーション戦術です。そうすると、2回目以降通常金額1時間数千円からの価格になっても高い確率でリピータになってくれるそうです。つまり、この事業のKFS(Key Success for Factor)は、価格設定ではなく、高齢者ならではの本音(騙されるのではないかという懐疑心、どんな人が来るのかといった不安)を理解できるか、それを払しょくすることができるかというところにあったのです。今では、この学生起業家は「孫がいてくれるように助かっている」と地域の多くの高齢者から愛される存在となっているそうです。

昨今では高齢者を支援するビジネスが様々な業界で始まっています。しかし、一部の企業から需要はあるはずなのだがなかなかお客様が増えないという声が聞かれます。そんな時は高齢者だからこその不安や悩みといった心の声に耳を澄ましてみることが大事なのかもしれません。その声に真摯に耳を傾けて作られた商品・サービスならきっと高齢者を笑顔にし、元気なシニアを増やしてくれるのではないでしょうか。