(初出 2012年4月 「元気シニア時代への提言」シリーズより)

なぜ、今、市場として、シニアが注目されるのでしょうか

日本の高齢化はますます進んでいます。65歳以上の人口が2012年に3083万人(国立社会保障・人口問題研究所・中位推計)となり、前年比107万人も増加しています。ますます、高齢者が増えることになります。

年齢を下げ60歳以上で見ると、60歳以上の人口シェア30%に対して、消費シェア40%、資産保有シェア60%あり、シニア市場はまさに金鉱と言えます。

デフレで厳しい経済情勢の中、成長するシニア市場が狙い目になるもうひとつの理由、それは年金生活者であることです。リストラもない、減額も殆どない年金生活者である、シニアは生活が安定していることがあげられます。そのため、どの企業も増加するシニア市場に目を向けざるを得ない時代となっています。

シニアの体調、身体的特徴、性格って何でしょうか

シニアを狙うには、商品戦略、流通戦略、売り場づくりなどの販促戦略、コミュニケーション戦略などがありますが、今回は主に売り場づくりについてコメントします。シニアにやさしい売り場づくりや接客についての話です。

シニアにやさしい売り場づくりや接客ってどんなことでしょうか。

一言でいえば、シニアの体調、身体的特徴、性格などにあった売り場をつくり、接客をすることです。

では、シニアの体調、身体的特徴、性格とは何でしょうか。

シニアになると、気付かないうちに、若い時と体調が違ってきますが、主なものは下記の10項目があげられます。もちろん、シニアによって個人差はありますが、多くのシニアに該当するものです。

★シニアの特徴
(1)朝が早い、夜も早い
(2)目が良く見えない
(3)歯が悪い
(4)足が遅い、段差が厳しい
(5)手があげにくい
(6)耳が遠い
(7)短い手・足、胴長
(8)くどい、しつこい
(9)保守的・頑固である
(10)人生経験が豊かである

こうしたシニアが感じる不便さや、性格の変化に対応することがマーケティングとしても重要です。

「シニアにやさしい売り場・接客」は、これらの特徴に対応したもの

こうしたシニアの特徴に対応することで、シニアが買い求めやすい売り場づくりや接客ができます。そこで、項目別に対応すべき内容を説明します。

(1)朝が早い、夜も早い

シニアになると、朝早く目が覚めます。午前3時から目覚める人もいます。朝早く目が覚め、やることがないため、NHKの「ラジオ深夜便」を聞いているファンが沢山います。
売り場での対応は、そんなにありませんが、早朝営業や割引などの実施があります。
旅行では「早い出発、早い帰着」などがシニアにマッチしています。

(2)目が良く見えない

シニアになると体調が悪くなるのが「目」です。老眼で見づらくなります。白内障や緑内障にもなります。そのため、店頭や通路では「大きな文字表示」、「読みやすい色」などの工夫が必要になります。チラシなどの広告物でも、同様に対応が求められます。

(3)歯が悪い・食が細い

目と同様に「歯」も弱くなります。入れ歯需要が増えます。そのため、柔らかめの食事が求められます。食が細くなりますので、少量パック需要が増えます。少量でも野菜など、栄養バランスが重要になります。

(4)足が遅い、段差が厳しい

体調の衰えは「足」に出ます。歩幅が短く、歩く速さも遅くなり、まっすぐあることが難しくなります。さらに、疲れやすくなります。その対応としては「段差をなくしたり」「広い通路にする」など、シニアにやさしい対応が求められます。そして、何よりも、シニアが休む場所「休憩所の設置」が重要になります。

(5)手があげにくい・背中がまるくなる

体調不良は「手があげられなくなること」や、「背中が丸くなること」にも、現れます。
手があげられにくいことには、「ゆったり袖の服」での対応があります。背中が丸くなると「上を見るのがつらく」なります。「店表示」は極力、上からつりさげる方法を避けることが賢明になります。なるべく、「床に近い場所、シニアの目線にあった位置に店頭POP」を掲示します。

(6)耳が遠い

色々なところに体調不良が出てきます。「耳」にもでてきます。人の話が聞きとりにくくなります。店員の対応や店内放送なども「ゆっくり」と「大きな声」での 対応が求められます。さらに、店員のお話が聞きとれたかの確認も大切になります。

(7)短い手・足、胴長

シニアは戦争時代に幼少時代を迎え、栄養不足の影響もあり、今の若者と異なり、「短い手・足、胴長」という身体的特徴があります。洋服などでは、それに対応したサイズが必要になります。

(8)くどい、しつこい

シニアになると行動や態度にも変化がでます。「くどい」「しつこい」というものです。そうしたシニアに対しては、「しっかり復唱すること」、さらに、「時間をかけた対応など」が大切になります。

(9)保守的・頑固である

同様にシニアの性格として、「保守的」になり、「頑固になる」傾向があります。そうした性格には「時間をかけた説得」が重要となります。また、売り場が変化し過ぎると困ってしまうシニアも出てきます。その対応には、「変えない売り場づくり」も重要になります。昔を思い出す、懐かしい時代の風景や、音楽なども、共感を呼びます。

(10)人生経験が豊かである

人生経験が豊かなシニアは、ものを見る目もしっかりしています。商品に関しては、「高品質」であることが求められます。そのため、そうした見る目があるシニアをモニターやアドバイザーなどに活用することで、ふさわしいシニア対策を実施することもできます。

今、大手の流通がシニア向けに売り場を変えています

団塊シニアのリタイに伴い、百貨店、量販店、コンビニなど、大手の流通が今、積極的にシニアを取り込もうとして、対策を打ち出しています。マスコミに掲載されたものをいくつか紹介します。

★京王百貨店:新宿でシニア向けに特化

百貨店競争が厳しい新宿で他の百貨店との差異化を図るために、京王百貨店がとった戦略はシニア向けに特化するものでした。商品としては、シニア体型にあった商品販売し、売り場は段差なくし、幅広い通路や休憩所を多く設置、さらに、売り場での販売対応は年配者があたることでシニア層に人気です。

★ダイシン百貨店:昔懐かしい商品も販売

ダイシン百貨店は、早くからシニア向け戦略を展開しています。店内には「柳屋ポマード」など昔懐かしい商品が並ぶなどの配慮があります。売り場では、スタッフがシニア客をエスコートしています。

★ダイエー:シニア向け店舗を赤羽に

ダイエーは赤羽店をシニアにシフトしています。商品では、4分の1のダイコンや4、5切れの刺し身といった個食対応の比率を増やし、塩分を抑えた総菜を強化しています。
売場では、通路を広くし、商品名や値札は大きめの文字、さらに、極力カタカナ記をしないなど、中高年向けに工夫しています。

★イオン:グランド・ジェネレーションを提唱

イオングループは、シニア向けに「グランド・ジェネレーション」を提唱しています。ホームページによれば、「人生の中でもっとも輝かしい時を迎える世代。若々しく年齢を重ね、ゆたかな知識と経験をもちながら、第2の人生をさまざまなスタイルで楽しまれている時代の年長者たちのことが、最近、『「グランド・ジェネレーション』と呼ばれています。イオングループは、このG.G(グランド・ジェネレーション)のお客さまのくらしをより積極的にお手伝いさせていただくために、グループの総力を結集して取り組みます。セカンドライフを安心して迎えていただくことはもちろんのこと、お客さまの幅広い興味と多様な価値観にお応えしながら、日々の生活や家族との時間をより快適で充実したものに・・・。イオングループのあらゆるサービスと商品をもってグランド・ジェネレーションを応援していきます。」としています。

・越谷市せんげん台店、シニア向けに
イオンの越谷せんげん台店では、少量パックを準備し、総菜も肉じゃが、ひじきなど、和食中心の品ぞろえとし、衣料品はシニア体形変化に、きめ細かいサイズを調整シリーズを開発しています。

・船橋にSC
スーパーの食品売り場では、少量サイズのお総菜などを充実させるほか、「健康」「簡便調理」など、キーワード別の売り場を展開し、「買いやすさ」をアピールしています。
医薬・化粧品売り場では、専任のコンシェルジュを配置し、美容や健康についてアドバイスしています。

★サミット:サミット高井戸東店

約一メートル四方はあるトイレの案内表示では、「大きい文字」と「分かりやすいマーク」で視認性をアップ、階段は「灰色と薄い茶色」の二色で色分けすることで踏み外しが起こりにくいようにしています。

★三越伊勢丹、新型店舗百貨店コンビニ高齢化利便性対応

食料品や日用雑貨の品ぞろえを重視した、コンビニエンスストア型の新しい小型店舗を出店し、高齢化などに対応しています。住宅地で身近に買える「百貨店コンビニ」と位置づけ、普及を目指しています。主力のギフト商品に加え、三越や伊勢丹のデパ地下で好評の食料品や生活雑貨、リビング用品などを販売します。

★ツタヤ、ローソン:代官山にシニア層向実験店舗

「代官山蔦屋書店」は、音楽、映像のレンタル・販売と書店、カフェが一体となった新型店舗です。趣味の本や名画、名盤を、各分野に専門のコンシェルジュを置いています。施設内にはファミリーマートが初めて出店した 「シニア向けコンビニ」もあり、輸入葉巻など「通好み」の品や、有機食材を使った高級弁当を販売しています。

ますます増加するシニアに対して、流通が本格的に取り組みかけている様子がうかがえます。
(日本元気シニア総研 顧問 富田眞司)