シニア市場を狙う場合、まず、考えなければならないのが、シニアが何にお金を使っているかの消費の内容です。定年で退職すれば、一時的には退職金収入があり、収入は増えますが、その後は主に年金生活になる人が多くなります。もちろん、生涯現役として働き続ける人は、収入が継続されるため、収入は減らない人もいます。

人口が増加するシニア市場ですが、収入が減少することで、1人当たりの支出が少なくなるわけです。シニアマーケティング戦略として、どこに市場を見出すかにとって重要なのは、シニアの支出になります。

まず、全体傾向を把握するため、高齢者の支出の実態を調べてみました。以下は2012年家計調査年報から1カ月間の支出(総世帯)によります。

1. シニアになると支出総額が減少する:「50代に比べて、72%に減少する」
シニアがどの程度支出が減少するか、1カ月の支出を「現役時代の50代の支出」とシニアの支出である「65歳以上の支出」で比較しました。

月額支出総額が50代は295,285円に対して65歳以上は214,266円となり、50代に比べ72.0%となっています。確実に支出が縮小します。

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2. シニアの支出で減少する費用は選択的支出:教育費、交通通信費、被服及び履物費
では支出内容はどうなっているのでしょうか。家計の支出には大きく分けて、「選択的支出」と「基礎的支出」に分かれます。「選択的支出」とは、消費者支出のうち、所得の減少などにより節約される支出のことを指します。教育費や旅行代金、パソコン代、外食代といった教養娯楽向けの耐久財などが含まれます。いわゆる贅沢品といわれるものです。

一方で、食費や光熱費、家賃、保健医療サービスなどの生活に必要不可欠な支出のことを「基礎的支出」といい、いわゆる必需品と言われるものです。

家計の所得が減少すると、「基礎的支出」の割合は高まりますが、「選択的支出」の割合は低くなる傾向にあります。シニアの支出も、まさにその傾向が大きく出ています。

●減少しているシニア支出の内容
65歳以上のシニア世帯が実際に減少している支出の内容は減少率の高いものから見ると
★教育費―50代:15,712円が65歳以上:702円と一気に縮小。
★交通通信費―50代:45,269円が65歳以上:22,433円と半額以下に。
★被服及び履物費―50代:12,541円が65歳以上:6,972円と半額近くに減少。
となっており、まさに選択的支出が大幅に減少していることがわかります。

実際に仕事を辞めることで、行動範囲が狭くなり交通費が減ります。また、ビジネスに関連する支出である「スーツ」「ビジネスバッグ」「ビジネスシューズ」「Yシャツ」などが不要になります。一方で、家族の成長に伴い教育費も減少します。

3. シニアの支出で増加する費用:医療関連
逆に増加する費用も出ています。それは、高齢化で体力低下するために生じる医療関係の費用です。保健医療費が50代で10,591円であったものが65歳以上になると12,791円となり、2割もアップします。支出額が少なくなる中で金額が増えることは、シニアにとって大きな負担になります。それは高齢化による体力の衰えからくる医療費関連の出費ということです。

では、どのような病気にかかるのかは、特定非営利活動法人PPKネットのホームページに掲載されたシニアが注意しなければならない病気の一覧が参考になります。

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例えば、高齢化は目にやってきます。多くの人が「白内障」にかかります。さらに緑内障になる人もいます。白内障は手術で簡単に治りますが、緑内障は薬で症状の進行を防ぐことしかできません。

次に「睡眠障害」があります。眠りにつくのに30分以上かかったり、何回も目が覚める、覚めた時に疲労感があるなどの症状です。

さらに「関節炎」は関節が痛い、こわばる、赤く腫れる、発熱するなどの症状です。この三つは発生率が50%以上と言われるものですので、注意しましょう。

その他にも、多くのシニアが高齢化により、体調不良が出てきます。

この「医療関係」での出費にかかわる支出が多いということは、シニアマーケティング戦略では、直接出費だけではなく、広義にとらえたビジネスも重要となります。つまり、「健康予防」としての「散歩や運動すること」や、「健康食品を購入すること」など、大きな市場が期待できます。

ここまでが全体の平均で分析したものです。平均で見るとシニア市場は支出減少が大きく、縮小する支出が多いのが現状です。ただひとつ拡大している医療関連分野では健康から医療関連までが考えられますが、限られた市場のため、シニアマーケティング全般的には厳しいように見られます。

しかし、この分析はあくまでシニア市場を「平均」という「ひとくくりにした分析」であります。もっと視点を考えて分析すれば、シニア市場の可能性はあります。

例えば、今、シニア市場でヒットしている「クルーズ旅行」、「観劇」、「一人旅」、「ケータイ市場」など、この分析では見えないシニア市場での可能性がたくさんあります。

これらの商品やサービスは選択的支出に含まれるものです。その市場を分析するには、シニアを一つに捉えないで、いくつかに分類して捉えることが必要になります。

そこで、次回はその2:ライフスタイル別分析からシニアの消費に迫ります。
(日本元気シニア総研 顧問 富田眞司)